みなこだの池の水ぜんぶ抜く!(後編)

 1時間は経っただろうか、いや、もう半日ほどバケツリレーを行っている感覚に陥っている。深緑の水をすくっては、運び、流す。その繰り返し。もう緑の水が袖口に付こうとも、気にならなくなってきた自分がいる。教頭先生も、お召し物が緑色の斑点だらけ・・。

 そこに、である。神が舞い降りた!電動ポンプの登場だ!ありがとう横地さん!なんでも、配信動画を観て「こりゃ終わらんぞ」と思っていただいたらしい。わざわさ運び入れてくれた。しかし、電動ポンプはどれだけのパワーがあるのか。

 電源を引き、排水ホースを伸ばして溝に。そして、するっと(という表現が一番当てはまる)その濃い緑の水の、まだ半分はあろう水位の池の中の一番深そうな場所へと、横地さんは手際よくポンプを落とし込んだ。

 コンセントを差し込むと、池の中に姿を隠しているポンプが低い唸り音を立てた。池から伸びている青色の、直径10センチほどの平たく畳まれたホースが、どんどんと、生命を得たように膨らみ、ホースの出口へと進んでいっている。まるで何かがホースの中に潜み、それが外へと駆け出ているかのように。その出口は、これからの出来事のために手を添えて支えてみている。

 ほんの、十秒。いや、実際はもっと短い時間だったかもしれない。膨らみがホースの出口まで到達するには大して時間がかかっていないのかもしれないが、固唾(かたず)を飲んで視ている私たちは、その動向がゆっくりと脳内に流れて映っていた。

 ホースの出口から池の濁った水が、これまでの鬱積が放たれたかのように、突然起こった爆発のように、飛び出てきた。余りの勢いに、出口を持つ横地さんの手からホースが飛んでいきそうになる。まるで消防士の消火活動のように勢いよく放出されていく。

 池の水は、これまでの作業を早送りの画像で見ているかのように、ぐんぐんと減っている。きっと全員が、いままでの作業は、荒行に挑む修行僧と同じではなかろうか、という自問自答をしながらも、減っていく水位に、全員が歓喜している。

 とにかく、速い。速いのだ。文明の利器とは、このことだ。一気に江戸時代から明治維新に進んだかのごとく。我々はいま、文明開化に遭遇しているのだ。

 池の中で、低振動の音波が発生していることや、ぐんぐんと水位が減っていること、そして池の周りから、人間共の歓喜の声がワァワァと聞こえてきたためか、これまではっきりとはしなかった池の中の生き物が、姿を現してきた。

 いた!魚だ!

 鯉?フナ?

 いやはや、これは大きいぞ!

直径60センチほどのおおきな網のタモを両手で構え、波立っているところへ突っ込み、すくいあげる。どこかの活魚居酒屋でみるいけすのように、水面の上から底面へと動かして、すくい上げる。

と、大物賞の登場。50センチはあろう鯉が、網の中で跳ね回っている。思わず拍手、そして、

「獲ったどーぉ」

である。よゐこの濱口ばりである。そう、我々はいま、明治維新のあと、一気に現在のお正月特番まで戻ってこれたのである。ドラえもんの力なしで。

 水位が減っていくにつれ、次々に魚たちが姿を現すが、活魚居酒屋主任級ベテラン店員と化した米崎隊員が、華麗な網裁きを披露し、矢継ぎ早に借りぐらしの池へと引っ越しが進められていく。

 11匹目をすくい、これで池の中には魚の姿がなくなった。ここからは、池の掃除。予想していたよりも遥かに内側がきれいで、池の底にも、ヘドロの体積はほぼなく、ホースで流すだけで、元々の色の白面になった。


 このあとは、池の設備の補修、そしてこの池に再び、鯉たちを戻すため、まだまだプロジェクトを続けます。

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コメント: 1
  • #1

    山田雅博 (水曜日, 02 12月 2020 08:41)

    南野さんの文章力スゴすぎです�✨✨✨